しびれは「神経の圧迫」だけじゃない。原因を見極める鍼灸アプローチ

手首を押さえ、手のしびれや違和感を感じている様子
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はじめに

手足のしびれ・神経痛といっても、その出方や体の反応は人それぞれ異なるため、当院では症状名だけにとらわれず、体の訴えを手がかりに治療を組み立てています。

私自身もこれまでに、首から腕・手にかけてのしびれや、臀部から太もも裏、ふくらはぎ、足先へと広がるしびれ・神経痛を経験してきました。時期によって症状の出方は異なり、皮膚にピリピリとした違和感が続くこともあれば、脛のあたりでは、軽く触れただけでも強い痛みとして感じられることもありました。

こうした感覚は、症状の程度にかかわらず、日常生活のさまざまな場面に影響してきます。

仕事中にペンが握りにくい、夜間にしびれで目が覚める、歩行時に足の感覚が鈍い、といった症状は、生活の質を低下させるだけでなく、「このまま悪化するのではないか」「重大な病気ではないか」という心理的負担にもつながります。

こうした症状は、動かせないほどの激痛でなくても常に意識に引っかかり、不安が積み重なりやすい点も、実際に経験して感じた部分です。

本記事では、手足のしびれ・神経痛という症状がどのようなものか、なぜ長引きやすいのか、そして鍼灸治療がどのような視点でアプローチするのかを、臨床的な観点から解説します。

しびれと神経痛―症状の整理

「しびれ」と一口に言っても、その感じ方には幅があります。

代表的なものとして、ピリピリ、チクチクとした異常感覚、ジンジン、ビリビリといった持続的な感覚、感覚が鈍い、触れても分かりにくいといった状態、力が入りにくい、動かしにくいといった運動の問題などが挙げられます。

一方、「神経痛」と呼ばれる痛みには、電気が走るような鋭い痛み、焼けるような、灼熱感を伴う痛み、刺すような、鋭利な痛み、締め付けられるような痛みといった特徴があります。

臨床的には、これらの「痛み」と「しびれ」が混在して現れることも少なくありません。たとえば、しびれを感じながら同時に痛みがある、あるいは日によって痛みとしびれの割合が変化する、といったケースです。

原因は一つではない―鑑別の重要性と臨床的現実

手足のしびれ・神経痛の原因は、単一ではありません。

末梢神経の絞扼

手根管症候群(手首での正中神経の圧迫)、肘部管症候群(肘での尺骨神経の圧迫)、足根管症候群など、神経が通過する部位で物理的に圧迫されるケースがあります。

脊椎由来の神経症状

頚椎症性神経根症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など、脊椎レベルで神経根が圧迫・刺激されることで、上肢や下肢にしびれや痛みが放散するケースがあります。

筋・筋膜・関節などの機能的要因

病院の検査では明確な異常が見つからないものの、筋肉の過緊張、筋膜の癒着、関節の可動性低下などが神経周囲環境に影響を与え、神経症状を増幅させている可能性があります。

症状を増悪させる因子

さらに、血流障害(冷え、循環不良)、姿勢(前傾姿勢、頭部前方偏位など)、日常的な負荷(同一動作の繰り返し、過負荷)、ストレス、睡眠不足、自律神経の乱れといった要因は、直接の原因ではなくとも、症状を増悪させる因子として作用することがあります。

臨床的には、「この症状の原因はこれ一つ」と単純に特定できないことが多いのが現実です。むしろ、複数の要因が重なり合い、それぞれがある程度関与している、という状態が一般的です。

医療機関での評価・検査の意味

しびれや神経痛を感じたとき、まず医療機関を受診することは重要です。

MRI、CT、レントゲンといった画像検査では、骨の変形、椎間板の突出、脊柱管の狭窄、腫瘍や炎症の有無など、構造的な異常を確認することができます。また、腱反射、筋力検査、感覚検査といった神経学的所見は、神経障害の部位や程度を推定するうえで重要な情報となります。

こうした検査の最大の意義は、重篤な疾患を除外することにあります。脊髄腫瘍、重度の神経圧迫、炎症性疾患、血管障害など、速やかな対応が必要な病態を見逃さないためには、医学的評価が不可欠です。

一方で、画像検査で明確な異常が見つからない、あるいは「年齢相応の変化」「軽度の変性」といった所見はあるものの、それが症状の強さと必ずしも一致しない、というケースも存在します。「異常なし」「様子を見ましょう」と言われたにもかかわらず、日常生活に支障をきたすほどの症状が続く―そうした状況に困惑される方は少なくありません。

これは、画像検査が「構造的な異常」を評価するものであり、筋肉の過緊張、筋膜の状態、神経の興奮性、痛み感作といった「機能的な問題」を直接映し出すものではないためです。

しびれ・神経痛が長引く、慢性化しやすい理由

しびれや神経痛が一度始まると、それが長引きやすい、あるいは慢性化しやすい背景には、いくつかの要因があります。

神経の過敏化・感作

神経が持続的に刺激されると、末梢レベルでも中枢レベルでも、神経の興奮性が高まり、通常では痛みやしびれを引き起こさない程度の刺激にも反応しやすくなる(感作)ことがあります。これにより、症状が維持・増幅されやすくなります。

防御反応による負担の偏り

痛みやしびれが生じると、無意識にその部位をかばう姿勢や動作を取るようになります。その結果、他の部位に過剰な負担がかかり、二次的な筋緊張や痛みが発生し、悪循環に陥ることがあります。

睡眠低下・ストレス・活動量低下の悪循環

しびれや痛みによって睡眠の質が低下すると、痛みの閾値が下がり、症状をより強く感じやすくなります。また、活動量が減ることで筋力や柔軟性が低下し、症状が改善しにくくなる、という循環が生じることもあります。

症状の波

しびれや神経痛は、常に一定ではなく、日によって、時間帯によって、あるいは天候や体調によって強弱の波を持つことがあります。この波があることで、改善しているのか悪化しているのか判断しにくく、不安が持続することもあります。

東洋医学的な視点からの理解

東洋医学では、しびれや痛みを「気血水の乱れ」「経絡の流れの停滞」「瘀血(血の滞り)」といった概念で捉えることがあります。
これらは“原因を一つに決めつける”ための理論というよりも、症状を局所だけに閉じず、身体全体の状態や回復力との関係から整理しようとする枠組みとして用いられてきました。

たとえば、疲労の蓄積や睡眠不足、精神的な緊張、消化機能の低下などが重なると、痛みやしびれの感じ方が強くなったり、回復が遅れたりすることがあります。こうした見方は、東洋医学に限らず、近年の臨床でも「回復力」「循環」「神経の過敏さ」といった観点から説明されることが多く、実際の現場でも無視できない要素です。

当院では、東洋医学の概念も一つの手がかりとして参照しつつ、最終的な治療判断は、症状の出方や変化、動作による影響、触診所見、刺鍼中・刺鍼後の身体反応といった具体的な臨床情報をもとに行います。
理論に当てはめることを目的とせず、関与している可能性の高い組織や機能を見極め、そこに狙いを定めてアプローチすることを基本としています。

鍼灸治療の現代医学的作用機序

鍼灸治療が手足のしびれや神経痛に対してどのように作用するのか、現代医学的な観点から整理すると、以下のような機序が考えられます。

末梢組織への作用

筋肉、筋膜、神経周囲組織に鍼刺激を加えることで、局所の血流改善、筋緊張の緩和、組織の柔軟性向上などが期待できます。神経を圧迫・刺激している周囲環境が改善されることで、症状が軽減する可能性があります。

神経の興奮性や疼痛抑制系への影響

鍼刺激は、脊髄レベルや中枢レベルでの痛み抑制機構(下行性疼痛抑制系)を賦活する可能性があります。また、過敏化した神経の興奮性を調整し、痛みやしびれを感じにくくする作用が示唆されています。

深層筋へのアプローチの意味

表層の筋肉だけでなく、深層筋(インナーマッスル)の機能障害が症状に関与しているケースでは、深層まで届く刺鍼が効果的な場合があります。深層筋は、姿勢保持や関節の安定性に関与しており、その機能が低下すると、神経周囲の環境が悪化しやすくなります。

低周波鍼通電(パルス)の活用

症状や状態に応じて、鍼に微弱な電気刺激を加える低周波鍼通電を用いることがあります。これにより、筋肉の収縮・弛緩を促し、より深部の筋緊張緩和や血流改善を狙うことができます。

当院の鍼灸治療は、「筋肉だけ」に限定されるものではなく、状態に応じて筋・神経・関節・靱帯・皮膚・筋膜などを含めて狙いを組み立てます。

手足のしびれ・神経痛に対する当院の具体的アプローチ

当院では、どの患者にも同じ治療を行うわけではありません。症状の現れ方、触診所見、身体反応をもとに、個別に治療を組み立てます。

問診・動作確認・触診による治療方針の判断

治療を開始する前に、まず問診で症状の出方、経過、日常生活での変化を確認します。次に、実際に動いてもらい、どの動作で症状が変化するか、再現されるかを観察します。そのうえで、触診によって筋肉の過緊張、圧痛点、左右差、動きの制限などを確認し、症状に関与している可能性の高い組織を推定します。これらの情報を総合して、治療方針を判断します。

症状の分布から関与組織を推定する

「どこが、どのようにしびれるか、痛むか」を詳しく確認します。たとえば、手の親指側がしびれるのか小指側がしびれるのか、足の外側か内側か、動作によって変化するか、といった情報から、関与している神経や筋肉を推定します。

触診で確認する

実際に触れて、筋肉の過緊張、圧痛点、左右差、動きの制限などを確認します。押すと症状が再現される部位(再現痛)がある場合、その部位が症状に関与している可能性が高いと判断します。

頚部から上肢のしびれ・神経痛へのアプローチ

頚部から上肢にかけてのしびれや神経痛では、頚部の深層筋(多裂筋、回旋筋など)、肩甲帯の筋肉(肩甲挙筋、菱形筋など)、前腕から手部に至る筋肉や神経の通過点を評価し、症状に関与している可能性の高い部位にアプローチします。

腰部から下肢のしびれ・神経痛へのアプローチ

腰部から下肢にかけてのしびれや神経痛では、殿部の深層筋(梨状筋など)、股関節周囲の筋肉、下腿から足部に至る筋肉や神経の通過点を評価します。坐骨神経痛の場合、腰部だけでなく、殿部や大腿部の筋緊張が大きく関与していることも少なくありません。

痛みの部位と治療部位が一致しないことがある

たとえば、手のしびれに対して頚部や肩甲帯を治療する、足のしびれに対して殿部や腰部を治療する、といったように、症状が出ている部位と実際に治療する部位が異なることがあります。これは、神経の走行や、症状を引き起こしている原因部位が離れた場所にあるためです。

刺激量のタイトレーション

刺激量は、最初から決め打ちしません。まずは細い鍼、弱めの刺激から開始し、刺鍼中・刺鍼後の反応を確認します。効果が十分であればその刺激量を採用し、不十分な場合は、デメリットとのバランスを見ながら段階的に調整します。

刺激量を増やす場合も、「強くすること」自体が目的ではなく、効果が出るかどうかが基準です。いくら刺激量を増やしても、適切なポイント(原因となっている組織・深さ・部位)を狙えていなければ、十分な効果は得られません。

神経周囲環境を整える

当院の治療は、神経に対して直接刺す、というものではありません。神経周囲の筋肉、筋膜、関節、靱帯といった組織の状態を整えることで、神経への圧迫や刺激を軽減し、症状の改善を目指します。

鍼灸の効果の現れ方と個人差

鍼灸治療の効果の現れ方には、個人差があります。

施術直後に、しびれや痛みが軽くなる、可動域が広がる、といった変化を感じる場合があります。施術当日は変化を感じにくいが、数日後に「そういえば楽になっている」と気づく場合もあります。また、複数回の治療を重ねることで、徐々に症状が安定していく場合もあります。

こうした違いが生じる理由には、症状の原因構造(単一か、複数か)、神経の過敏化・感作の程度、日常生活での負荷の大きさ、睡眠、ストレス、全身状態などが関与していると考えられます。

当院が目指すのは、一時的な変化ではなく、症状が改善し、一定期間安定する状態です。症状によっては、治癒、あるいは寛解と呼べる状態を目指します。

医療機関と鍼灸、それぞれの役割

医療機関と鍼灸は、対立するものではなく、それぞれ異なる役割を持っています。

医療機関の役割

診断、重篤疾患の除外、薬物療法(消炎鎮痛薬、神経障害性疼痛治療薬など)、必要に応じた手術やブロック注射など、医学的介入を行います。

鍼灸の役割

筋肉、神経興奮性、自律神経、痛み抑制系といった機能的側面に関与し、症状の軽減や身体機能の改善を目指します。

どちらが正しい、どちらが優れている、という話ではありません。症状や状態に応じて、それぞれの役割を理解し、必要な選択をすることが重要です。

セルフケア・日常生活での注意点

鍼灸治療と並行して、日常生活での工夫も症状の安定に役立ちます。

悪化因子への現実的な向き合い

長時間の同一姿勢(デスクワーク、スマートフォン操作など)、冷え、過度な負荷、睡眠不足などは、症状を悪化させる要因となります。完全に避けることは難しい場合も多いですが、可能な範囲で調整することは意味があります。

強すぎるストレッチや自己マッサージに注意

「伸ばせば治る」「押せば治る」と考え、強すぎるストレッチや自己マッサージを行うと、かえって組織を傷めたり、症状を悪化させたりすることがあります。「やりすぎない」「頑張りすぎない」という視点も大切です。

可能なら軽い運動・筋力維持

過度な安静は、筋力低下や関節の硬さを招き、長期的には症状を悪化させる可能性があります。痛みやしびれの範囲内で、無理のない軽い運動や筋力維持を心がけることは、一般的には推奨される考え方です。

ただし、個々の状態によって適切な対応は異なるため、専門家と相談しながら進めることをお勧めします。

おわりに

手足のしびれ・神経痛は、複数の要因が関与し、長引きやすい症状です。

静ごころ鍼灸院では、症状の出方・動作による変化・触診所見をもとに関与組織を推定し、深層筋を含めた機能的側面へのアプローチを行います。

医療機関での評価と並行しながら、症状の改善と生活の質の向上を目指す選択肢として、鍼灸治療をご検討いただければと思います。

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