【緊張型頭痛】に対する鍼灸の考え方とアプローチ方法|症状の原因・ツボ・施術の全体像を解説

こめかみに手を当てて頭痛に悩む男性。緊張型頭痛の一例
目次

はじめに

私自身、かつて慢性的な頭痛に悩まされていました。
特に、頭全体が重く、ベルトで締めつけられているような圧迫感が、首すじからじわじわと広がるような感覚で、ほぼ毎日のように続いていたのを覚えています。おそらく、慢性緊張型頭痛だったと思いますが、当時は診断を受けることもなく、自分でマッサージをしたり、我慢してやりすごしていました。

鍼灸に出会ってからは、こうした頭痛が気にならなくなり、肩こりと同じように、少し無理をすれば出てくるものの、早めに対処すれば大きな問題にはならなくなりました。

この記事では、緊張型頭痛に対する鍼灸の考え方やアプローチについて、東洋医学と現代医学の両面からご紹介します。
同じような症状に悩まれている方の参考になれば幸いです。

緊張型頭痛とは? その定義と原因

症状の定義

緊張型頭痛は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において「両側性で、圧迫感または締め付け感(非拍動性)の性質を持ち、軽度または中等度の強さで、日常的な動作によって悪化しない頭痛」と定義されています。単に「緊張型」と表現されていますが、その原因や発症機序は複雑で、単純に「筋肉の緊張」だけで説明できるものではありません。

主な原因

緊張型頭痛の原因は大きく以下のように分類できます:

  1. 筋肉性要因
    • 頭蓋周囲筋(側頭筋、後頭筋、僧帽筋など)の持続的な緊張
    • 咀嚼筋(咬筋、側頭筋)の過緊張(歯ぎしり、食いしばりなど)
    • 深部頸部筋(頭半棘筋、頚半棘筋、多裂筋など)の緊張
  2. 神経性要因
    • 中枢性感作(central sensitization):痛みに対する神経系の過敏反応
    • 疼痛制御機構の障害:下行性疼痛抑制系の機能低下
    • 神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン等)のバランス異常
  3. 心理的要因
    • 慢性的なストレス
    • 不安障害、うつ病などの精神疾患
    • 心理社会的要因(職場環境、人間関係など)
  4. 生活習慣要因
    • 睡眠障害
    • 姿勢不良(前方頭位など)
    • 視覚疲労(VDT作業など)
    • 水分不足
    • カフェインの過剰摂取または離脱

このように、緊張型頭痛は単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症します。特に慢性化した緊張型頭痛では、末梢の筋肉の問題だけでなく、中枢神経系の感作が重要な役割を果たしています。

東洋医学からみた緊張型頭痛

基本的な考え方

東洋医学では、頭痛は「頭は諸陽の会するところ」という考え方のもと、主に以下のような病機(病態生理)で説明されます:

  1. 気血の不調
    • 気滞:気の流れが滞ることによる頭痛
    • 気虚:気が不足することによる頭痛
    • 血虚:血が不足することによる頭痛
  2. 外邪の侵
    • 風邪:風の邪気による頭痛
    • 寒邪:寒の邪気による頭痛
    • 湿邪:湿の邪気による頭痛
  3. 臓腑の不調
    • 肝の不調:肝陽上亢、肝火上炎など
    • 腎の不調:腎虚による頭痛
    • 脾胃の不調:脾虚による頭痛

弁証論治

緊張型頭痛は、東洋医学的には主に以下のような証(症候)に分類されます:

  1. 肝気鬱結
    • 症状:両側または片側の締め付けるような頭痛、ストレスで悪化、イライラ、胸脇苦満
    • 舌診:舌質正常やや暗赤、薄い白苔
    • 脈診:弦脈
  2. 肝陽上亢
    • 症状:拍動性の頭痛、めまい、顔面紅潮、怒りやすい
    • 舌診:舌質紅、薄い黄苔
    • 脈診:弦数脈
  3. 気血両虚
    • 症状:慢性的な頭重感、疲労感、顔色不良、動悸
    • 舌診:淡白舌、薄い白苔
    • 脈診:細弱脈
  4. 肝腎陰虚
    • 症状:持続的な頭痛、耳鳴り、腰膝酸軟、五心煩熱
    • 舌診:紅舌少苔
    • 脈診:細数脈

現代の忙しい生活を送る多くの方々の緊張型頭痛は、「肝気鬱結」の証を呈することが多いのが特徴です。これは現代医学でいう心理的ストレスと筋緊張の関係に近いものがあります。

鍼灸治療のメカニズム

東洋医学的メカニズム

東洋医学では、鍼灸治療の作用機序を以下のように考えます:

  1. 経絡調整
    • 経絡の気血の流れを改善
    • 経筋の緊張緩和
    • 経絡上の気滞を解消
  2. 臓腑調整
    • 肝の疏泄機能の改善
    • 脾胃の運化機能の強化
    • 腎の精気の補充

現代医学的メカニズム

現代医学の観点から見た鍼灸治療の作用機序は以下の通りです:

  1. 神経学的機序
    • 末梢神経刺激による痛覚抑制(ゲートコントロール理論)
    • 大脳皮質の痛覚処理に対する調整作用
    • 下行性疼痛抑制系の活性化(セロトニン、エンドルフィン等の関与)
  2. 筋・筋膜への作用
    • 筋緊張の緩和(局所的な筋スパズムの解除)
    • トリガーポイントの不活性化
    • 筋血流の改善
  3. 自律神経系への作用
    • 交感神経系の過剰活動の抑制
    • 副交感神経系の活性化
    • 自律神経バランスの調整
  4. 免疫・内分泌系への作用
    • 抗炎症作用(サブスタンスP、CGRP等の炎症性神経伝達物質の減少)
    • ストレスホルモン(コルチゾール等)の調整
    • 免疫系の調整

特に注目すべきは、鍼治療による「Deactivation of Limbic System(大脳辺縁系の不活性化)」です。最新の機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)研究により、慢性疼痛患者では扁桃体や前帯状皮質などの大脳辺縁系が過活動状態にあることが示されていますが、鍼治療によりこれらの活動が正常化することが報告されています。これは情動と痛みの密接な関係を示唆しています。

緊張型頭痛に対する具体的な鍼灸治療

代表的なツボ(経穴)

緊張型頭痛に有効な主要なツボには以下があります:

  1. 頭部・顔面部
    • 百会:頭頂部、精神安定、気の上昇を抑える
    • 印堂:眉間中央、頭痛緩和の重要穴
    • 太陽:こめかみ、側頭部の緊張緩和
    • 頭維:前頭部の緊張緩和
  2. 頸部・肩部
    • 風池:後頭下部、頸部の緊張緩和、気血を上昇させる
    • 天柱:後頸部、首の緊張緩和
    • 肩井:肩の緊張緩和、気の降下
  3. 四肢
    • 合谷:第1-2中手骨間、頭痛の要穴、気の巡りを改善
    • 足三里:下腿外側、全身の気血を補う
    • 太衝:足背部、肝気を疏泄、気滞を解消
  4. 背部
    • 大椎:第7頸椎棘突起下、陽気を補う
    • 肺兪、心兪、肝兪、腎兪:対応する臓の調整

治療技法

  1. 基本的な手技
    • 毫鍼(細い鍼)による浅刺
    • 雀啄術(じゃくたくじゅつ):鍼を小刻みに上下させる手技
    • 旋撚術(せんねんじゅつ):鍼を回転させる手技
  2. 特殊な技法
    • 頭皮鍼:頭皮上の特定の領域に沿って刺鍼
    • 平刺:皮膚に平行に刺入する手技
    • トリガーポイント鍼治療:筋筋膜性疼痛症候群のトリガーポイントへの刺鍼
    • 電気鍼:低周波電流を流す方法(特に慢性例に有効)
  3. 深部筋へのアプローチ
    • 後頭下筋群(小後頭直筋、大後頭直筋など)への刺鍼
    • 頭板状筋への刺鍼
    • 多裂筋、半棘筋などの深部脊柱起立筋への刺鍼

灸治療

  • 温灸:間接灸による温熱刺激
  • 知熱灸:微弱な熱刺激を繰り返し与える方法
  • 棒灸:直接皮膚に触れずに温める方法

実際の治療では、これらの技法を患者の証(症候)に合わせて組み合わせていきます。例えば「肝気鬱結」の証が強い場合は、合谷・太衝を重視した治療、「気血両虚」の場合は足三里・三陰交などの補法を用いた治療を行います。

鍼灸治療の効果とその現れ方

即時効果

多くの緊張型頭痛患者さんは、初回治療後すぐに以下のような変化を感じます:

  • 頭部の締め付け感の軽減(70-80%の患者で認められる)
  • 頸部・肩部の筋緊張の緩和
  • 全身的なリラクゼーション効果
  • 頭の「すっきり感」

これらの即時効果は、主に「ゲートコントロール理論」や「自律神経系の調整」によるものと考えられています。特に、治療中に「重だるさ」や「気持ちよさ」を感じる場合は、自律神経の副交感神経優位の状態となっていることを示し、良好な反応と言えます。

遅延効果

治療後24〜48時間後に現れる効果として:

  • 頭痛の再発頻度の減少
  • 痛みの強度の軽減
  • 鎮痛薬使用量の減少
  • 睡眠の質の改善

これらは主に神経伝達物質の変化や内因性オピオイドの分泌増加によるものと考えられています。

累積効果

継続的な治療により以下のような変化が見られます:

  • 頭痛発作の頻度・強度・持続時間の漸進的減少
  • 慢性的な筋緊張の改善
  • ストレス耐性の向上
  • 自律神経バランスの正常化
  • QOL(生活の質)の全般的な向上

特に慢性緊張型頭痛では、中枢性感作の状態を変化させるために、継続的な治療が重要です。単回の治療ではなく、複数回にわたる治療によって神経系の可塑的変化を促すことが有効です。

西洋医学との併用

緊張型頭痛に対しては、以下のような併用療法が考えられます:

薬物療法との併用

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):鍼灸治療と併用することでNSAIDsの使用量減少の可能性
  • 筋弛緩薬:鍼灸の筋緊張緩和効果との相乗効果
  • 抗うつ薬(SSRI、SNRI等):重度の慢性緊張型頭痛では必要に応じて併用

他の非薬物療法との併用

  • 理学療法:特に姿勢改善エクササイズとの併用が効果的
  • 認知行動療法:慢性頭痛の心理的側面への対応
  • バイオフィードバック:自己調節能力の向上
  • リラクセーション訓練:自律神経調整能力の向上

鍼灸治療は、これらの治療法と相互補完的に作用し、総合的な治療効果を高める可能性があります。特に、薬物療法だけでは副作用が懸念される場合や、効果不十分な場合の選択肢として有用です。

セルフケアと日常生活の注意点

治療効果を維持・向上させるための日常生活でのアドバイスとして:

姿勢の改善

  • デスクワーク時の姿勢:モニターの高さ、椅子の調整
  • スマートフォン使用時の「テキストネック(うつむき姿勢による首の慢性負担)」の防止
  • 適切な枕の選択と睡眠姿勢

ストレス管理

  • 深呼吸法:1日3回、5分間の腹式呼吸
  • マインドフルネス瞑想:短時間でも定期的に
  • 適度な運動:特に有酸素運動(ウォーキング等)

セルフマッサージと経穴刺激

  • 太陽穴・百会・風池のセルフマッサージ
  • 合谷・太衝の指圧
  • 温灸器による家庭での灸治療

生活習慣の調整

  • 水分摂取:1日1.5〜2リットルの水分補給
  • 睡眠:規則正しい就寝・起床時間
  • カフェイン摂取の調整:過剰摂取や突然の中止を避ける
  • アルコール:過剰摂取を避ける

これらのセルフケアは鍼灸治療の効果を補完し、長期的な症状管理に役立ちます。

まとめ

緊張型頭痛は、現代社会において非常に一般的な健康問題です。その原因は多岐にわたり、単に「肩こり」だけでは説明できない複雑な病態が存在します。東洋医学では「肝気鬱結」「気血両虚」などの観点から、現代医学では筋緊張や中枢性感作などの観点から病態を理解し、それぞれのアプローチで治療が可能です。

鍼灸治療は、これらの複雑な病態に対して、神経系・筋系・自律神経系など多方面から作用することで、緊張型頭痛に対する有効な治療オプションとなります。即時効果を実感できる患者さんが多い一方、特に慢性例では継続的な治療が中枢神経系の可塑的変化を促し、長期的な改善につながります。

頭痛治療は、鍼灸だけでなく、薬物療法や他の非薬物療法、そして何より生活習慣の改善を含めた総合的なアプローチが理想的です。頭痛でお悩みの方は、まずは専門家に相談し、自分に合った治療法を見つけることをお勧めします。

静ごころ鍼灸院では、一人ひとりの頭痛の性質や背景を丁寧に見極め、東洋医学と現代医学の知見を活かした施術を行っています。慢性的な頭痛でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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