はじめに
私自身、かつて慢性的な頭痛に悩まされていました。 特に、頭全体が重く、ベルトで締めつけられているような圧迫感が、首すじからじわじわと広がるような感覚で、ほぼ毎日のように続いていたのを覚えています。おそらく、慢性緊張型頭痛だったと思いますが、当時は診断を受けることもなく、自分でマッサージをしたり、我慢してやりすごしていました。
鍼灸に出会ってからは、こうした頭痛が気にならなくなり、肩こりと同じように、少し無理をすれば出てくるものの、早めに対処すれば大きな問題にはならなくなりました。
この記事では、緊張型頭痛に対する鍼灸の考え方やアプローチについて、東洋医学と現代医学の両面からご紹介します。 同じような症状に悩まれている方の参考になれば幸いです。
緊張型頭痛とは? その定義と原因
症状の定義
緊張型頭痛は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において「両側性で、圧迫感または締め付け感(非拍動性)の性質を持ち、軽度または中等度の強さで、日常的な動作によって悪化しない頭痛」と定義されています。単に「緊張型」と表現されていますが、その原因や発症機序は複雑で、単純に「筋肉の緊張」だけで説明できるものではありません。
主な原因
緊張型頭痛の原因は大きく以下のように分類できます。
筋肉性要因
頭蓋周囲筋(側頭筋、後頭筋、僧帽筋など)の持続的な緊張、咀嚼筋(咬筋、側頭筋)の過緊張(歯ぎしり、食いしばりなど)、深部頸部筋(頭半棘筋、頚半棘筋、多裂筋など)の緊張などが関与します。
神経性要因
中枢性感作(痛みに対する神経系の過敏反応)、疼痛制御機構の障害、神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン等)のバランス異常などが考えられます。
心理的要因
慢性的なストレス、不安障害、うつ病などの精神疾患、心理社会的要因(職場環境、人間関係など)が頭痛の発生や持続に影響を与えることがあります。
生活習慣要因
睡眠障害、姿勢不良(前方頭位など)、視覚疲労(VDT作業など)、水分不足、カフェインの過剰摂取または離脱といった日常的な要因も無視できません。
このように、緊張型頭痛は単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症します。特に慢性化した緊張型頭痛では、末梢の筋肉の問題だけでなく、中枢神経系の感作が重要な役割を果たしています。
緊張型頭痛の方で、当院が施術前に特に確認しているポイント
緊張型頭痛の施術を組み立てる際、当院では以下のような身体所見を重点的に確認しています。
後頭部〜首すじの緊張分布
後頭下筋群(小後頭直筋、大後頭直筋など)や頭板状筋といった深層筋を含む後頭部から頸部にかけての緊張の分布を、触診と動作確認で見ていきます。頭を支える筋群の緊張パターンは、症状の出方に直結することが多いためです。
側頭部・こめかみ周囲の緊張や圧痛
側頭筋の過緊張や圧痛点の有無、締めつけ感の中心がどこにあるかを確認します。側頭部の筋緊張は、頭痛の質や範囲に大きく関わります。
咬筋・顎まわりの緊張(食いしばり・噛みしめの有無)
咀嚼筋の過緊張は、頭部全体の筋バランスに影響を及ぼします。普段の食いしばりや夜間の歯ぎしりの有無も含めて状態を把握します。
首や肩の動きによる症状の変化
頸部の可動域、動作時の痛みや違和感の変化を確認し、どの組織が症状に関与しているかを推定します。動作で症状が変わる場合、その動きに関わる筋や関節の関与が考えられます。
姿勢や頭の位置による負担のかかり方
前方頭位(頭が前に出る姿勢)やデスクワーク時の姿勢など、日常的に負担がかかりやすい姿勢パターンを確認し、持続的な緊張の原因を推定します。
これらの所見をもとに、症状に関与している可能性の高い部位や組織を推定し、どこに狙いを定めて刺鍼するか、どの程度の刺激量が必要かを組み立てていきます。
東洋医学からみた緊張型頭痛
基本的な考え方
東洋医学では、頭痛は「頭は諸陽の会するところ」という考え方のもと、気血の流れや臓腑の状態から病態を捉えます。気の流れが滞る「気滞」、気が不足する「気虚」、血が不足する「血虚」、外邪(風邪・寒邪・湿邪など)の侵入、臓腑の不調(肝・腎・脾胃)といった観点から、頭痛の背景を理解します。
弁証と臨床判断
緊張型頭痛は、東洋医学的には「肝気鬱結」「肝陽上亢」「気血両虚」「肝腎陰虚」といった証に分類されることがあります。
現代の忙しい生活を送る方々の緊張型頭痛では、「肝気鬱結」の状態を呈することが多く見られます。これはストレスによる気の滞りを意味し、現代医学でいう心理的ストレスと筋緊張の関係に近いものがあります。こうした証に対しては、合谷・太衝といった経穴が選択されることがあります。
一方、慢性化して疲労感が強い場合には「気血両虚」の状態が考えられ、足三里・三陰交などの経穴が用いられることもあります。
ただし、当院では証の判断だけで治療内容が自動的に決まるわけではありません。証やツボ選択は、臨床判断を構成する材料の一つとして位置づけています。実際の施術では、症状の出方、動作による変化、触診所見、施術中・施術後の身体反応を重視して、狙う部位や刺激量を調整しています。
鍼灸治療のメカニズム
東洋医学的メカニズム
東洋医学では、鍼灸治療の作用を経絡調整、臓腑調整といった観点から理解します。経絡の気血の流れを改善し、経筋の緊張を緩和すること、肝の疏泄機能や脾胃の運化機能を調整することで、全身的なバランスを整えていきます。
現代医学的メカニズム
現代医学の観点から見た鍼灸治療の作用機序は以下のように考えられています。
神経学的機序
末梢神経刺激による痛覚抑制(ゲートコントロール理論)、大脳皮質の痛覚処理に対する調整作用、下行性疼痛抑制系の活性化(セロトニン、エンドルフィン等の関与)といった神経系への働きかけが知られています。
筋・筋膜への作用
筋緊張の緩和、トリガーポイントの不活性化、筋血流の改善などが期待されます。
自律神経系への作用
交感神経系の過剰活動の抑制、副交感神経系の活性化など、自律神経バランスの調整に関与すると考えられています。
免疫・内分泌系への作用
抗炎症作用、ストレスホルモンの調整、免疫系の調整などが報告されています。
また、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた研究分野では、慢性疼痛患者で過活動状態にある大脳辺縁系(扁桃体や前帯状皮質など)の活動が鍼治療によって変化する可能性が示唆されており、情動と痛みの密接な関係が注目されています。
こうした研究知見は、鍼灸治療が複数の経路を介して作用する可能性を示すものですが、当院ではあくまで目の前の患者さんの症状の出方や身体反応を最優先に、施術内容を組み立てています。
緊張型頭痛に対する具体的な鍼灸治療
代表的なツボ(経穴)
緊張型頭痛に対して用いられる主要な経穴には以下があります。
頭部・顔面部
百会、印堂、太陽、頭維など
頸部・肩部
風池、天柱、肩井など
四肢
合谷、足三里、太衝など
背部
大椎、肺兪、心兪、肝兪、腎兪など
これらの経穴は、古典的な理論に基づいて選択されますが、実際の臨床では、触診所見や症状の出方をもとに、どの経穴を優先的に用いるかを判断していきます。
治療技法
基本的な手技
毫鍼(細い鍼)を用いた刺鍼、雀啄術(鍼を小刻みに上下させる手技)、旋撚術(鍼を回転させる手技)などを状態に応じて使い分けます。
深部筋へのアプローチ
緊張型頭痛では、表層筋だけでなく深層筋の機能障害が症状に大きく関与しているケースがあります。当院では、後頭下筋群(小後頭直筋、大後頭直筋など)、頭板状筋、多裂筋、半棘筋などの深部脊柱起立筋に対して、解剖学的構造と安全性を前提に、必要に応じて深層まで届く刺鍼を行います。
深層筋へのアプローチは、表層へのアプローチでは得られにくい効果をもたらすことがありますが、すべての症例で深い刺鍼が必要なわけではありません。症状の出方、触診所見、刺鍼中・刺鍼後の反応を見ながら、狙いと刺激量を判断しています。
特殊な技法
頭皮鍼、トリガーポイント鍼治療、低周波鍼通電(パルス)などを、必要に応じて組み合わせます。特に慢性例では、低周波鍼通電が有効なケースもあります。
灸治療
温灸、知熱灸、棒灸など、温熱刺激を用いた治療も、症状や体質に応じて取り入れます。
実際の治療では、これらの技法を患者さんの状態に合わせて組み合わせていきます。証の判断も材料の一つとしながら、症状に関与している可能性の高い組織を推定し、そこに狙いを定めてアプローチしていくことを基本としています。
当院における刺激量の考え方
当院が考える「ちょうどいい鍼灸」とは、刺激が弱い・痛みが少ないという意味ではありません。
鍼刺激による生体反応は、一般に刺激量が大きいほど強く起こる傾向があり、太い鍼や深い刺入は、多くの感覚受容器を刺激し、より大きな生体反応を引き出せる可能性があります。しかし一方で、刺激が過剰になれば、不要な副反応が生じる、防御反応や緊張を強める、治療継続が困難になる、といった不利益が生じることもあります。
当院では、「生体にとって有効であり、かつ治療として継続可能な刺激」という観点から刺激量を判断しています。
タイトレーションという臨床判断
刺激量は、最初から決め打ちするものではありません。当院では、医学でいうタイトレーション(反応を見ながら段階的に調整する考え方)を、鍼灸治療の刺激量判断に応用しています。
まずは細い鍼・弱めの刺激から開始し、刺鍼中・刺鍼後の反応を確認します。効果が十分であれば、その刺激量を採用します。効果が不十分な場合は、デメリットとのバランスを見ながら刺激量を段階的に調整します。
刺激量を増やす場合も、「強くすること」自体が目的ではなく、効果が出るかどうかが基準です。いくら刺激量を増やしても、適切なポイント(原因となっている組織・深さ・部位・ツボ)を狙えていなければ、十分な効果は得られません。
当院における「ちょうどいい鍼灸」とは、適切なポイントを狙ったうえで、効果と副反応、患者の許容範囲、治療継続性のバランスが最も取れる刺激量を選択する行為そのものを指しています。
鍼灸治療の効果とその現れ方
即時効果
多くの緊張型頭痛患者さんは、初回治療後すぐに頭部の締め付け感の軽減、頸部・肩部の筋緊張の緩和、全身的なリラクゼーション効果、頭の「すっきり感」といった変化を感じます。
これらの即時効果は、主にゲートコントロール理論や自律神経系の調整によるものと考えられています。特に、治療中に「重だるさ」や「気持ちよさ」を感じる場合は、自律神経の副交感神経優位の状態となっていることを示し、良好な反応と言えます。
遅延効果
治療後24〜48時間後に現れる効果として、頭痛の再発頻度の減少、痛みの強度の軽減、鎮痛薬使用量の減少、睡眠の質の改善などが見られることがあります。これらは主に神経伝達物質の変化や内因性オピオイドの分泌増加によるものと考えられています。
累積効果
継続的な治療により、頭痛発作の頻度・強度・持続時間の漸進的減少、慢性的な筋緊張の改善、ストレス耐性の向上、自律神経バランスの正常化、QOL(生活の質)の全般的な向上といった変化が見られることがあります。
特に慢性緊張型頭痛では、中枢性感作の状態に働きかけるために、継続的な治療が重要です。単回の治療ではなく、複数回にわたる治療によって神経系の可塑的変化を促すことが期待されます。
ただし、これらの効果の現れ方は個人差が大きく、症状の程度や慢性化の度合い、生活習慣などによって異なります。当院では、施術中・施術後の反応を見ながら、次回以降の施術内容や刺激量を調整しています。
西洋医学との併用
緊張型頭痛に対しては、鍼灸治療と西洋医学的治療を組み合わせることで、より総合的なアプローチが可能です。
薬物療法との併用
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、筋弛緩薬、抗うつ薬(SSRI、SNRI等)などと併用することで、相互補完的な効果が期待できる場合があります。
他の非薬物療法との併用
理学療法(特に姿勢改善エクササイズ)、認知行動療法、バイオフィードバック、リラクセーション訓練などとの併用も有効です。
鍼灸治療は、これらの治療法と相互補完的に作用し、総合的な治療効果を高める可能性があります。特に、薬物療法だけでは副作用が懸念される場合や、効果不十分な場合の選択肢として有用です。
セルフケアと日常生活の注意点
治療効果を維持・向上させるために、日常生活では以下のような点に注意することが勧められます。
姿勢の改善
デスクワーク時のモニターの高さや椅子の調整、スマートフォン使用時の姿勢(テキストネック)の防止、適切な枕の選択と睡眠姿勢など。
ストレス管理
深呼吸法、マインドフルネス瞑想、適度な有酸素運動など。
セルフマッサージと経穴刺激
太陽穴・百会・風池のセルフマッサージ、合谷・太衝の指圧、温灸器による家庭での灸治療など。
生活習慣の調整
水分摂取、規則正しい睡眠、カフェイン・アルコール摂取の調整など。
これらのセルフケアは鍼灸治療の効果を補完し、長期的な症状管理に役立ちます。
まとめ
緊張型頭痛は、現代社会において非常に一般的な健康問題です。その原因は多岐にわたり、単に「肩こり」だけでは説明できない複雑な病態が存在します。
静ごころ鍼灸院では、緊張型頭痛の施術にあたり、後頭部〜首すじの緊張分布、側頭部・こめかみ周囲の状態、咬筋・顎まわりの緊張、首や肩の動作による症状の変化、姿勢による負担のかかり方といった身体所見を丁寧に確認しています。
これらの所見から、症状に関与している可能性の高い組織を推定し、どこに狙いを定めて刺鍼するか、どの程度の刺激量が必要かを判断しています。表層筋だけでなく、必要に応じて深層筋へのアプローチも行い、低周波鍼通電(パルス)を用いることもあります。
刺激量については、タイトレーションの考え方に基づき、刺鍼中・刺鍼後の反応を見ながら段階的に調整しています。軽い刺激で十分な効果が得られる場合はそれを選択し、効果が不十分な場合は、効果と副反応、患者の許容範囲、治療継続性のバランスを見ながら刺激量を調整します。
慢性的な頭痛でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
※本記事の内容は、健康や施術に関する一般的な情報提供を目的としたものです。すべての方に当てはまるわけではありませんので、症状に不安がある場合は医療機関でのご相談もあわせてご検討ください。
